名うてのスリだった早瀬主税(はやせちから)は、ドイツ語学者酒井俊蔵の書生となり、新進気鋭と呼ばれるほどの学者として将来を嘱望されていた。主税にはお蔦(おつた)という柳橋芸者の馴染みがおり、将来は夫婦になろうと誓い合っていた。しかし芸者と結婚することは、経歴の傷となると考えた酒井は、主税にお蔦と別れるように命じるのだが…
原作は泉鏡花の小説で、明治時代後期に発表されました。新派でも人気演目になり、大衆演劇でもよく扱われています。酒井への義理とお蔦への愛情の間で揺れ動く主税と、一途に主税のことを想うお蔦の心情、そしてその後の急展開も見所です。「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉…」というお蔦の名台詞がありますが、これは舞台版のみのセリフで、原作小説には出てきません。