旅芝居女優名鑑第2回辰己小龍(5/6)
毎日がスペシャルな今。
仕事に誇りを持って
女性も前に出る時代
1ヶ月何の身入りもなかった日々。
素顔で歩いたら誰も気づいてくれない日々。
そんな頃と比べたら毎日がスペシャル!と、小龍。
女の子たち、自分を売り出してるなーって。
いい時代です、みんなに応援していただけて。
夢がありますよね。
夢がなければしんどくてやっていけない世界ですから。
うちの劇団では裏方は女の子の仕事で、みんなでワイワイ喋りながらやっています。
女の子たちに言うんです「自分に値打ちを持ちなさい」と。
仕事をいい加減にしたら、自分の値打ちが下がる。
自分の値打ちは自分で出す。
たとえ仕出しの役でも、私が演ったら仕出しじゃなくなるって!
受け継いだことを自分もまた
自分が父と母に憧れたように、自分も娘たちの憧れの存在でありたい。
それが女優・辰己小龍の1つの行動指針でした。
厳しく教えると反発するけど、憧れの人の言うことなら聞きますよね。
私がそうでしたから。
「あなたのお母さん素敵だね」と言われると自慢になるでしょう?
長女を役者にという思いを持っていましたが、今彼女は別の夢を持ち始めました。それがどうなるかわからないけれど、仮にでもこの世界に進ませてしまったら、他の道が断たれてしまう。
だから自分の夢を娘に託すのはやめようと思いました。
子供たちに伝えるために残してきた資料や映像。それは誰に。
私が父から学んだと言いながらも、間に入ってくださった先輩がいて、支えられてきました。
だから私も、若い子たちに引き継いで行こうかなって。
どの子がどう羽ばたくかわからないけど、それこそ我が子と思って大事に大事に…。
この仕事をやり続けて、お客様に喜んでもらうこと。
私が父や先輩方からもらったものを、若い子たちに伝えること。
それが今の私の夢で目標です。
辰己小龍の個人舞踊『かもめはかもめ』は、印象的な舞踊の1つ。
真っ白な合羽に、ザッパーンと大きな波模様。
三度笠にも、波模様。
三度笠を足でからげたり、合羽をひるがえしたりする一連の股旅の所作が、なんとも優雅でエレガント。
結んだ赤い草鞋に決意が見える。
股旅ゆえの寂しさ、孤独。
それでいてどこまでも強く、揺るぎない眼…
女性ならではの股旅舞踊だ、と思いました。
「『泣いているより、涙を堪えて笑っている方がかわいそうに見えるやろ』と父が昔言ってました。
お客様の中には私のことを座長になれなくて、身を引いてかわいそうって思ってくださる方があるようです。それで得をしたり損をしたり…笑」(小龍)
脚光を浴びることはないと思いつつ、ひたむきに歩み続けた芸の道。
辰己小龍のような女優たちが歩いた後に、ひと筋の道がくっきりとあり、キラキラ輝きを放っています。