舞台裏の匠たち第4回「夢の中にも照明が出てくる」劇団炎舞投光橘みつおさん(2/2)
3.照明は座長から一任。だからこそ工夫を凝らす
劇場によってやり方も変わる
以前、劇団さんを取材させていただいた劇場で、後方からだと舞台の足元が見えないところがありました。
その時、橘鷹志さんの舞踊「肥後の駒下駄」で、最後に高くあげた下駄に、スポットが吸い込まれるよう消えて。足元が見えない分、逆に印象に残りました。
うん、そういうところでは、小道具は出来るだけ見えるようにしてって言うね。劇場によって全然違うからね。
場所によってこうしてくださいとリクエストされるのですか?
する時もあるけれど、座長なんかはもうわかってるから。
小道具を照らすのも、曲や役者の動きに合わせる。例えば、舞台に傘を置いて、座長が花道へ行くでしょ。で、座長が振り返った時に、傘にスポットを当てる。
そういうのも当然、打ち合わせ無しで、ですよね…(驚愕)
もう32年やってるから、だいたい何考えてるかわかる(笑)。1月30日が誕生日で、70歳になった。
逆に失敗したなって思う時はありますか
ほとんどないけど、たま~に、ちょっと違うことして、合わなかったなと思った時は『ごめん』って言うね(笑)。でも、失敗したかなって思っても、逆にこの方がいいなって思う時もある。毎回同じことはしないようにしてる。役者さんと同じやね。
シンプルが基本。舞台側の操作に合わせて色を変える
今日は橘鷹勝花形の個人舞踊で「満月」という歌詞のところで、照明の色が変わりましたね。
フィルターの3つ目が黄色やから、これで「月」のイメージね。こういうのが好きなんよ。照明はシンプルなのが一番いいと、俺は思う。
色を変えるタイミングはどのように決めているのですか
舞台の電気(舞台袖で操作する照明)を見て、こっちも色を使うようにしてる。ハヤシの人(音響や照明を操作する担当者)もこっちに気を遣うし、俺も向こうに気を遣う。主にもん太がやっているけど、他のメンバーも担当する。見てたら今誰がハヤシやってるかわかるんよ。あ、今は鷹勝やな、とか(笑)。
個人的に好きなお芝居や舞踊はありますか
好きな曲は、テンポのいいやつ、静かなやつとか。芝居調の曲が好きかな。歌詞を聞いて月を出したり、照明している時はずっと集中している。
お芝居の時はスポット3本ほしい
芝居の時は、これ(ぼかし)。光のきわを見せないように。
劇場によって立ち位置が変わったり、スポットが2本までしか置けないところがあるんですね。
お芝居の時は3本欲しい。また、当てる時は、決めておかなあかん。真ん中から右はこっち、真ん中から左はこっちで当てるって。
ここ(オーエス劇場)は正面だからまだ出来るけど、斜めから当てる時とかは決めておかないと分からなくなる。3本使うと難しいけれど、やりがいはあるね。
新作芝居は稽古から立ち会う
お芝居の照明もお任せなのですか
うん、そう。
座長から指示は
たまに、ある。例えば、ここの最初の方はスポットは点けないでください、とか、特別な時だけね。あとは任せてもらってるから。逆に、こちらからこうしてほしいことない?って聞くようにしてる。
新作の時は稽古から全部観るね。それで、この時はこうしようとか、考えるの。
以前取材させていただいた「河内十人斬り」は長丁場で人数も多いですし、照明も難しそうです
『河内』は大好き。難しいけど大好き(笑)。これをやる時は立ち稽古からずっと観るね。
蹴破りなどはタイミングが難しそうですね
大体わかるよ。わかるようになった。
「河内」で特にお好きな場面はありますか
やっぱり弥五郎と妹のおやなが別れるところやね。この場面は、誰がおやなを演っても泣いていた。自然と涙が出てくるんよ。
お芝居で泣くことはありますか
うん、照明しながらしょっちゅう泣いてた。今はもう泣かないけどね(笑)。
4.投光は天職
寝ても照明のことを考える
俺ね、寝てからも照明のことばっかり、ずっと考えてる。夢の中で、開演時間が近づいて来て、これ(照明)が無い!って、探してるねん(笑)。またある時は、全然違う機械が座ってて、慌てる夢とか、しょっちゅう見るの。
そこまで考えるほど、駆り立てるものは何でしょうか
まあ、役者も俺がこうしたらこうしてくれるというのがわかってるから。やっぱり、きれいに見せてやりたいしね。投光は専門がおらんと、と、俺は思う。音響と照明、一番大事やもん。
そのこだわりが、お客様にも伝わっていると思います
ヘタクソって言われたくないし、好きでやってるから。美しいなって思ってもらえるように、俺が見せなあかん。役者さんを好きにならんと絶対いい仕事できない。
ずばりやめたいと思った時は…
昔に、ちょっとね。理由は言わない(笑)。この仕事に出会えてよかった。自分の天職やと思ってる。
みつおさんの照明ブースには香盤表がありません。事前打ち合わせもなく、すべてお任せ。それでどうやってあんなに安定した照明が出来るのだろう??と、頭の中は疑問符だらけ。
しかし、観ているうちに、役者がこうしたらこうする、この場合はこうする、といった、みつおさんが編み出したたくさんの「型」があることに気づきました。
「型」があるから全てに一貫性があり、その上で「遊び」が出来る。
大衆演劇の役者さんが、お芝居のセリフが全て頭の中にあって台本が要らないのと同じで、みつおさんにも照明の手法が全て頭に入っているので、香盤やマニュアルは要らないのでした。
コロナで休演。信じて待つ
2020年、2021年と、コロナで休演になった時はどのように過ごしておられましたか
どうもせん。劇場の寮でじっとしとったね。テレビとか洋画好きやからそんなん見たりして過ごしてた。不安は不安やけど、あまり考えないようにしてたね。しょうがないもん。
信じてまつ、と言う…
はい(笑)。
みつおさんから見て劇団炎舞のここが好き!というところを教えてください
みんな仲良いし、チームワークが良いところやね。それとみんな平等。座長がみんなを平等にするところ。なかなかできないと思う。今、座員が減って大変やけどね。人数おらんと出来ない芝居が出てくるでしょ。それが残念やけど。
身体が動く限り
今日は本当にありがとうございました。最後に、32年照明を担って来られたみつおさんにとって、この仕事の醍醐味というか、ここまで続けられた理由、楽しみは何でしょうか。
やっぱり(こちらが照らすと)きれいに浮かんでくるやん。もっときれいに見せてやりたい、あ、ここはこうしてやろう、次はこうしよう、って。そんなことを考えるのが、楽しいね。
この間、録画していた高橋真梨子のコンサート映像を見たんよ。照明がそらあ綺麗で、歌と光がぴったり合ってるの。
コンサート映像でも照明に目が行くのですね
勉強になるよ。でももう70歳やから、座長には『あと何年出来るかわからんけど、出来るうちは頑張るから』って言ってる。まだ大丈夫やけど(笑)。
もちろんです!まだまだ先のことと思いますが、引退された後、したいことはありますか?
もう車の免許もなくなったからね。免許切替えの年を勘違いして忘れてとって(笑)。
何がしたいか、全然浮かばない。考えるのはもうちょっと先でいいかな。もうちょっとね(笑)
取材メモ
「いつかボスがみんなに『タコ(みつおさんのこと)の言うことは俺が言うことやと思え』って言ってくれてね。嬉しかった」と、みつおさん。
投光は、舞台にこそ立っていないけれど、お芝居も舞踊も劇団メンバーと一緒に作っている。そんな思いが伝わってきました。
劇団情報
劇団炎舞
昭和63(1988)年3月に初代座長橘魅乃瑠が兵庫県のホテル後楽圓にて「橘劇団」を旗揚げ。平成14(2002)年3月、橘魅乃瑠の息子・橘炎鷹が座長襲名し、劇団名を「劇団魅星」に改名。その後、体調不良により一時舞台を離れたが、平成20(2008)年より再び座長として舞台に立ち、劇団名を「劇団炎舞」に改名。まさに不死鳥のごとく新たな炎鷹ワールドを展開。2018年に結成30年を越え、若手の成長も著しい。